骨
ホラホラ、これが僕の骨だ、
 生きてゐた時の苦労にみちた
 あのけがらはしい肉を破つて、
 しらじらと雨に洗はれ、
 ヌツクと出た、骨の尖。
 それは光沢もない、
 ただいたづらにしらじらと、
 雨を吸収する、
 風に吹かれる、
 幾分空を反映する。
 生きてゐた時に、
 これが食堂の雑踏の中に、
 坐つてゐたこともある、
 みつばのおしたしを食つたこともある、
 と思へばなんとも可笑しい。
 ホラホラ、これが僕の骨――
 見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
 霊魂はあとに残つて、
 また骨の処にやつて来て、
 見てゐるのかしら?
 故郷の小川のへりに、
 半ばは枯れた草に立つて、
 見てゐるのは、――僕?
 恰度立札ほどの高さに、
 骨はしらじらととんがつてゐる。
Source: Poetry (June 2025)


